【大峰】下多古川・本谷

記  吉岡
タイトル 琵琶滝と中ノ滝の両瀑を配する古くからの沢登りの名所
メンバー 榎、丸尾、松田、西岡、伊地知、宇川、吉岡、OG会員1名
日程 2008年9月26日(金)N〜9月27日(土) 天気 晴れ
場所 大峰・下多古川・本谷 地形図 洞川
歩行時間 4時間20分 遡行図 有り
コース
タイム
林道終点(7:05)→入谷(7:15)→熊山ノ渡瀬(7:42)→琵琶滝直下(7:55〜8:15)→琵琶滝の頭(8:30〜8:45)→中ノ滝直下(9:00〜9:15)→角千本淵(9:45〜9:50)→2段6mの滝(10:15)→木ノ葉入らずの淵(11:10)→左岸からの割りに大きい枝谷出合・1140m地点(11:20〜12:20)→左岸からの小さい枝谷(12:44〜12:52)→琵琶滝(13:11)→琵琶滝休憩所(13:18〜13:35)→林道終点着(13:45)
アプローチ マイカー利用が便利。尺土駅から下多古入り口まで49.5km、林道終点まではさらに4.1km。林道終点には4台くらいの駐車スペースがある。
装備 一般沢登り用具一式
メモ 下多古川は、昔の山上参りの道が通じていただけに、紹介した以外に行者のタナモト岩、
ハナスカベ、ササゴオリなどの地名が残るが、廃道となった現在では位置の確認が難しい。

下多古川は山上ケ岳の東方、五番関と洞川辻の狭い稜線に源を発し、吉野川に入るもので、その長さは6km、余り大きな谷ではないが、昔より相当有名な谷であって、『大和志』をはじめ『大和名所図会』、『芳野誌』などにも記載されている。また、下多古の古老の話によると、上多古川の阿古滝道同様、昔は山上参りの一つの巡路になっていて、相当の賑わいを見せたとの事である。谷相は明るく、しかも落ち着いた柔らかみのある谷であって、気楽な谷歩きに最適。
下半分は植林されているが、琵琶滝、中ノ滝の二瀑よりも上流は美しい自然林に包まれ、暖傾斜の美しい流れとなっている。それに加えて交通の便は至ってよく、大阪より日帰りでも楽しめる。また、琵琶滝の直下までは、平成15年に遊歩道が整備され一般のハイカーの訪れもある。
 前夜、林道終点まで車で入り仮眠。明けて27日は天候も回復して青空が見え隠れしている。会のホームページ開設のおかげか、今シーズンになって4人の会員が仲間に加わり、今回の例会では総勢8名の仲間の参加と相成る。
 下多古川は京阪神の愛好者にはよく知られた渓谷であるが、私と丸尾さんを除いては今回が始めての入谷ということで、それぞれが期待感に胸を膨らませている様子が読み取れる。私にとっても1992年以来16年ぶりの入谷で、当時の事はすっかり忘れていて新鮮味がある。
林道終点から遊歩道に入り、足下に小滝やナメが走るのを見て、10分余り歩いた地点から谷に下り遡行を開始する。巨岩が転がるゴーロを抜けると、斜瀑L15mが現れ、すぐ上にも10mの滝が形良く深淵に落下している。下段の斜瀑をフリクションを利かせて直登し、10m滝は右側を巻き登り滝の頭に出ると、斜瀑5mが続いて懸かりへつりぎみに通過する。右手には遊歩道(木橋)が通じている。次にナメ状L10m、岩間に懸かる小滝を3つばかり越えて行くと遊歩道は吊橋で右岸に渡る。「熊山ノ渡瀬」と呼ばれるところだ。
釜を従えた4mの滝を過ぎ、ゴーロに懸かる小滝を数個こなして行くと、眼前にこの谷随一の琵琶滝が上下二段になって堂々たる容姿を見せている。落差は50mを誇り、『大和名所図会』等では『廣大瀧』と記され、幾分斜めの岩壁の上を一気に30m余りも落ちて一寸した釜を作って下段につなげており、直下に立つと水飛沫が頬に冷たい。秋にもなればこの辺りの谷間の紅葉は素敵に美しい。琵琶瀧の名は、この谷の両岸一帯の山を指して『琵琶山』というところから名づけられたと文献に出ている。
直下より仰ぎ見る琵琶滝二段50mの雄姿、滝飛沫が頬に冷たい
 琵琶滝の突破は滝のすぐ左の鏡石谷(三段30m滝の懸かる枝谷)に入り、泥壁を木やツルを掴んで強引に岩場の上部へ抜けて高巻き道と合し、右へ踏跡を辿って滝の落口に立つ。
下多古川の見せ場はこの琵琶滝から始まる。

直下より仰ぎ見る琵琶滝二段50mの雄姿、
滝飛沫が頬に冷たい
右岸の岩壁が立ったゴーロ帯を進むと、斜瀑6mを前衛にして中ノ滝が末広がりに飛散する。高さは琵琶滝よりも劣るが、布を引くように優美に落ちていて、落差は40mと言われている。滝壺の前でそれぞれが思いのポーズで記念写真を撮っていて、どの顔も笑みを浮かべ満足そう。
 ここは滝の直下から左側を大きく巻くと、琵琶滝から続く踏跡に出くわし、滝頭へと導かれる。谷が狭まり、所々に現れる小滝やナメをへつって行くと、ナメ滝二段4mがあって、モチ谷を右に迎えると大きな淵を従えた斜瀑L12mに出合う。角千本淵で、この谷随一の淵と云われ、角材千本を同時に入れることが出来るとの意味であるが、今では淵も小さくなっている。ここは、滝の左手コーナーを直登して行くが滑りやすいので、初心者がいる場合はザイルを出して安全を期したい。

中ノ滝40mが美しく懸かる

大きな淵を従えた角千本淵
上流の静かな流れに出て、右岸に幕営に適した台地をみて遡上を続け、二段6mの滝をこなし、所々に出てくる小滝を難無く越えて、二段4m滝、流木の積み重なる小滝を乗り越して行くと、丸い淵を従えた4m滝の前面に立つ。これが『大和志』に記された「木ノ葉入らずの淵」である。名の由来は流れに木の葉が沈まないことから名づけられたという。上流は両岸の岩壁が屏風のように立ち、上にも続いて6mの滝と、下からでは見えないが4mの滝と三つ連ねている。ここはあっさりと左岸に入るガリーを直登するが、「フングリイタダキ」と呼ばれる所である。フングリって分かるかな?…。
左岸を高巻き滝頭に降り立つと、割りに大きい枝谷が右手から流入してくる。地図の標高1140m地点である。遡行を開始してから一度もザイルを出すことなく、いいペースできた甲斐があり、時計はまだ11時18分を回ったところで、陽射しの差す川原に腰を降ろしてランチタイムとする。
この先、谷は暖傾斜の流れとなり、ナメ滝10m、右岸に岩屋を持った8m滝とがあって、11l80m地点で二俣となる。ここで旧山上参りの道は中間尾根の長尾八丁を登り、「吉野山から百六十一丁」と記した奥駈道にでるが、日帰りではここまでくらいが妥当で、今回は無理せずここで遡行を断念して引き返すことにした。
 のんびりとしたランチタイムの後、谷筋を下降して中ノ滝の落ち口からは右岸の踏み後を拾って、琵琶滝を眺める休憩所を経て林道終点には13時45分に帰り着いた。


林道脇で見つけたカラカサダケ《ハラタケ科》食用

琵琶滝の頭での記念のスナップ